遠隔操作、自動化できる工程を
触覚センサーによって拡大可能に

ロボットの遠隔操作技術の進歩によって、これまで人間がやっていた作業をロボットが実施できるようになってきました。
遠隔操作ロボットは、原発や災害現場などの危険な環境で作業をします。また、工場の運搬、組み立て作業などをロボットによって自動化できます。
一方、人間と同程度の作業品質をロボットで実現するのが難しく、遠隔操作、自動化できていない工程もあります。
今回の記事では、遠隔操作、自動化できていない工程に対して触覚センサーを応用する可能性について解説します。

なぜ遠隔操作、自動化をしなければならないのか?

まず、ロボットによる遠隔操作・作業自動化には以下の役割や効果が期待できます。

・過酷、危険な作業の代行
人間にとって過酷な環境での作業や、危険が伴う作業をロボットが実施することで作業員の安全性向上や労働環境の改善につなげられます。
例として、温度が高い環境や、溶接現場のように独特のにおいと強い光が発生する環境が挙げられます。

・重量物、大型部品の運搬、組み立ての代行
産業機械など大型の製品では、部品を運んで組み立てるためにロボットを使います。
人間が持てない重量物の組み立てには遠隔操作ロボットが有効です。

・省人化、効率化
現場から離れた居室や自宅から複数のロボットを遠隔操作することによって、少ない人員で業務を進められます。また、現場までの移動時間削減により作業の効率化、生産性の向上を図ることができます。

・品質向上、安定化
ロボットは同じ作業を自動かつ確実に繰り返します。ヒューマンエラーが起きないため品質が安定します。
また、大型部品の研磨など、手が届かないところの作業であってもロボットを遠隔操作すれば実現可能となる工程もあります。

製造業の工程で遠隔操作、自動化が導入されている事例

では実際に、製造業の工程で遠隔操作・自動化が導入されている事例をご紹介いたします。

溶接ロボット

溶接ロボットは、溶接工程の自動化を実現します。

溶接は、溶接時の強い光が目に悪影響を与えたり、ガスが発生する場合があったりと人体に被害を及ぼす可能性があります。
溶接ロボットを導入することで、効率化、品質安定化につながるだけでなく、過酷な現場での作業を減らすこともできます。

組み立て遠隔操作

自動車や大型機械の組み立て工程では、重いものをつかんで運んだり固定したりする作業を遠隔操作で実施する場合があります。

遠隔操作デバイスによって、離れた場所から人間がロボットを操作し、所定の位置へ製品や部品を運ぶことが可能です。また、最初に遠隔操作を記録して、その後は自動運転にすることもできます

倉庫内自走式運搬ロボット

物流倉庫には、たくさんの棚があります。通常、このような棚は人間による力作業、もしくはフォークリフトによって運搬することが多いでしょう。こういった倉庫内で活躍するのが自走式運搬ロボットです。

Amazonの倉庫にはこの自走式ロボットが導入されています。自走式運搬ロボットは、床に貼られたQRコードを目印にして、指定の場所まで棚を移動させます。ロボットを導入することで省人化・効率化を実現しています。

ただ、棚に物品を置く作業はまだ人間による手作業が主流となっています。理由としてはさまざまな形状・素材の製品に対し、その全てにロボットハンドが対応するのは難しいためです。

遠隔操作、自動化が難しい工程

次に、依然として遠隔操作・自動化が難しいとされている工程をご紹介いたします。

ワイヤーハーネスの差し込み作業自動化

ワイヤーハーネスとは電気配線のことを指します。電気機器や家電、自動車などさまざまな機械の内部に使われています。ワイヤーハーネスは曲がりやすいため、ハンドリングが難しく、ロボットハンドで扱うには適していません。

また、人間がコネクタにワイヤーハーネスを差し込む際には、指先の触覚によって差し込み完了を検知しています。しかし、ロボットハンドではこういった触覚のような繊細な検知が難しく、自動化に至っていません。

ロボットによる遠隔操作、自動化を進めるためには、曲がりやすい製品も適切につかむ機能や、繊細な触覚を備えたロボットの技術開発が必要です。

研磨工程

研磨とは、製品の表面を滑らかに仕上げるために数μm~数十μm程度削って平らにする作業です。研磨工程によって微小な凹凸を減らせます。

研磨対象の表面が平面であればロボットによる遠隔操作や自動化も実現可能です。
しかしながら、研磨対象が曲面をもつなど複雑な形状をしている場合、力加減の調整や細やかな操作が難しいため人間の手作業が主となっています。

人の手で研磨をするときは、触覚によって微小な凹凸を判断して、力を変えるなどの制御をしています。そのため、熟練の技術者であればきれいに作業を完了できますが、経験が浅いとうまく研磨できません。

ロボットによる遠隔操作、自動化を進めるためには、人間の手の触覚と同じようなセンサーを備え、力の入れ具合などを制御できるロボットの技術開発が必要です。

食品搬送、梱包工程

食品搬送や梱包においても課題があります。
同じ動作を繰り返すロボットにとって、例えば大きさが不揃いな食品は取扱いが難しくなります。また、ブドウやバナナなどのやわらかい食品は、つぶさないようにつかまなければなりません。季節によってつかむ対象が変わることもあるでしょう。

人間が作業する際には、視覚情報で大きさや形を認識して手を広げてつかみます。また、触覚によって得られる情報から、つぶしたり落としたりしてしまわぬよう注意してつかみます。

ロボットによる遠隔操作、自動化を実現するためには、さまざまな形状に対応でき、都度適切な力でつかむことができるロボットの開発が必要です。

NISSHAの摩擦力、せん断力センサー

NISSHAは、リアルタイムに摩擦・せん断力を測定できる面状センサーを開発しました。
柔軟なシート状センサーの変形を読み取り、摩擦・せん断力の面内分布をマッピング。

「従来の力覚センサーでは多点検出ができない」「圧力分布だけでなく、摩擦力の分布も観察したい」 「人の指先が感じる触感を評価したい」などの要望にお応えします。

薄いフィルム状なのでロボットハンドに設置可能

NISSHAの摩擦・せん断力センサーはフィルム状で厚さ1㎜以下、容易に変形し大きさもカスタマイズ可能です。センサー表面に生じる面圧だけでなく、摩擦力やせん断力も測定できます。
形状自由度が高く、触覚センサーとしてロボットハンドに適用できます。

この触覚センサーを活用することによって、これまでにご紹介した「遠隔操作、自動化が難しい工程」に関してもロボットの導入が期待できます。

ワイヤ―ハーネス差し込み時の微小な摩擦力を検知する可能性

ワイヤーハーネスの差し込みは、微小な摩擦力の変化を指の触覚で感じ取って作業をします。
NISSHAのセンサーはリアルタイムで摩擦力を測定可能です。そのため、つかんでいるワイヤーハーネスの摩擦力変化を測定できます。また、ハーネスの本数や太さが変わっても摩擦力、圧力を測定し、落とさないように制御できます。
NISSHAのセンサーを適用することで、遠隔操作、自動化を実現できる可能性があります。

研磨の微小な力の変化を検知する可能性

人間が研磨を行う際には、作業者が手で感じとるわずかな感覚の違いなどをもとに研磨し、高精度の面性状を実現しています。

NISSHAの摩擦・せん断力センサーは微小な摩擦力、面圧の変化を検知し可視化できます。そのため、研磨工程に応用することで遠隔操作、自動化できる可能性があります。

やわらかい果物など多様な対象物をつかむ可能性

NISSHAの摩擦・せん断力センサーを使うことで、ロボットハンドに触覚をあたえることができます。
この技術を活用して、形が同じではないつぶれやすい果物や野菜であっても、摩擦力、面圧を制御することでつぶさないように搬送できる可能性があります。

触覚センサーによって遠隔操作、自動化工程における課題を解決

以上から分かるように、NISSHAの摩擦・せん断力センサーはロボットハンドの手指などの小さな曲面にもフレキシブルに追従し、人の手のような触覚を与えることができます。
従来のセンサーでは難しかった遠隔操作・自動化における課題を解決できる手段として今後期待されています。

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