NISSHAでは、把持力の測定に活用できる摩擦・せん断力センサーを開発しています。この記事では、把持力の概要と、インターネット上で公開されている把持力を活用した研究開発について5つの事例を紹介します。 人が生活する上で、何かをつかむ(把持する)動作は欠かせません。こうして無意識に行っている把持動作のデータを取得・分析できれば、介護、スポーツ、産業などの多様な場面で活用することが可能です。
把持力を活用した調査・研究や把持力センサーの活用に興味がある方は、ぜひこの記事をご確認ください。
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「把持」とは、ものをつかみ、保ち続けることを意味します。「把持力」は、把持する(ものをつかみ続ける)ために必要な力です。人の手や足が何かをつかむ力だけでなく、ロボットハンドがものをつかむ力も把持力とよぶことがあります。
把持力の測定データは、誰しもが使いやすいバリアフリー製品の開発や、ロボットハンドの性能評価など、幅広いシーンで活用されています。
把持力を評価、測定し、その結果をどのように活用しているか、具体的な活用事例を紹介します。
把持力の測定結果は、使いやすい日用品を開発するために用いられています。
日用品のほとんどは、若壮年層の健常者向けに設計されています。しかし、手指の筋力や機能は年齢を重ねると共に低下していくため、日用品の中には高齢者にとって使いにくいものが存在します。
高齢者にやさしく、使いやすい生活用品を設計するには、高齢者の手指の把持力データを取得し、設計に活かすことが効果的です。
例えば円筒や直方体の容器を握った際の、容器の形状と把持力を調べた測定データにより、高齢者でも使いやすいコップなどの生活用品が設計されています。また、手すりなどのバリアフリー用品を、どこにどのような形状で設置すればいいか判断するために、把持力の測定結果が活用できます。
把持力のデータは、高齢者に生じやすい歩行障害の確認にも活用できます。
高齢者は、外反母趾変形による痛みで歩行障害が生じやすい恐れがあります。歩行障害が生じると転倒するリスクが高くなるため、転倒によるけがや行動範囲の制限によるさらなる筋力低下などが懸念され、早期の把握と対策が必要です。
実際に症状が出てからでは十分な対策ができません。しかし、外反母趾変形の大きな要因の一つとして、足趾の筋力低下の影響が想定されているため、足の把持力データの変化を確認できれば、筋力低下の傾向をつかみとることができます。
このように大きな影響が出る前に症状の兆候を把握し、対策を早期に取ることで歩行障害の予防が可能です。
足の把持力は歩行時の前後方向における安定性に関連することが知られていますが、それ以外にもさまざまな対象との関係性に関する研究が進められています。その一つがスプリント力との関係です。
把持力センサーを活用した研究によると、把持力の強弱がスプリント力に影響を与えることが明らかになりました。足把持力を測定することで、スプリント能力や年齢によるスプリント力の変化を客観的なデータとして示すことが可能です。
把持力のデータは、人を対象とした用途だけでなくロボット向けにも広く活用されています。
ロボットに複雑な作業を担わせる場合には、シンプルな二本指のハンドや吸着ハンドではなく、人間の手に類似したロボットハンドが必要とされます。例えば、形状が事前に明確になっていない未知の形状の物体を適切に把持するためには、ロボット形状の最適化に加えて、「どのようにつかむか」といった制御検討が必要です。そのため、把持力データをロボットハンドのセンサーに反映させる等、ロボットへの展開も進められています。
把持力を活用した制御方法の一例として、乳児の握り反射(乳児の手のひらに指を当てると反射的に握る動き)を模擬するようなものがあります。さまざまな把持における動きやデータを分析し活用することで、ロボットハンドへのさらなる発展が期待されます。
把持力のデータがロボットハンドの機構開発に活用された例もご紹介します。
電動モータを駆動源とするロボットハンドは、正確な位置制御がメリットです。しかし、ロボットハンド自体が電動モータの影響で大きく、重くなってしまいます。また、正確な位置制御が難しい複雑な形状や柔らかさが異なる対象物には向いていません。
そこで、より小型化・軽量化されたロボットハンドで、柔らかい対象物でも正確につかめるように、把持力センサーで対象物の形状や柔らかさを正確につかむ取り組みが行われています。
対象物をつかむ際の力を正確に取得できるため、制御精度を向上させることが可能です。また、アクチュエータの数を最小限に抑えることで、ロボットハンド自体の小型軽量化も実現しています。
ここまで把持力を活用した研究事例を紹介してきました。これらの事例では、足指筋力計やロードセル、重心動揺計などのさまざまな計測機器が使われています。 NISSHAの摩擦・せん断力センサーは、これら従来の把持力測定機器とは全く異なるコンセプトの機器として開発されています。
NISSHAの摩擦・せん断力センサーは次のような特長を持っています。
・フィルムタイプのセンサー 基材にフィルムを使用した薄くて柔軟なセンサーです。フィルム基材を湾曲させて使用することができるので、曲面部に搭載することが可能です。この特徴を利用すれば、ロボットの指部や人の足裏など、研究対象物の表面にかかる把持力を直接測定することが可能になります。 ・摩擦力と押圧力を同時に測定 センサー表面を横に滑る力(摩擦力)とセンサー表面を押す力(押圧力)を同時に検出します。摩擦力については力の方向も検出が可能です。つまり、摩擦力(x,y軸方向)と押圧力(z軸方向)の3軸の力を測定できる3軸力覚センサーになっています。 ・多点同時測定(マルチアレイセンサー) 基材フィルム表面には3軸力覚センサーがマトリックス状に形成されているので、広い面積での摩擦力と押圧力のベクトル分布を分析することが可能です。 この機能は指の各部位にかかる把持力の分布の分析や、足裏が床面に与える力の分析などに活用できると考えています。
把持力のデータは、さまざまな人が使いやすい製品の開発や機能の確認、生活しやすい環境の整備、さらには工場の自動化を実現するロボットハンドなど、幅広い分野での研究開発に活用されています。 NISSHAが開発する摩擦・せん断力センサーは、さまざまな場面での把持力測定に貢献できる可能性があります。摩擦・せん断力センサーについて、くわしくは製品webサイトで紹介しています。ぜひ、ご覧ください。
・ 摩擦・せん断力センサーカタログ ・ 摩擦・せん断力センサー評価事例集
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摩擦・せん断力センサーについて、詳しくはこちらの製品ページで紹介しています。
(参考資料) ・株式会社 共和電業 「共和技報 第514号」 https://www.kyowa-ei.com/jpn/file/download/technical/magazine/giho_topics/to550/giho_topics_514.pdf
・神戸学院総合リハビリテーション研究 第11巻第1号 http://www.reha.kobegakuin.ac.jp/~rehgakai/journal/no11-1-endai08.pdf
・金沢星稜大学 人間科学研究 第5巻 第1号 https://www.seiryo-u.ac.jp/u/research/gakkai/ronbunlib/h_ronsyu_pdf/5_1/p31_oomori_msugibayashi_shimada_oota.pdf
・日本機械学会論文集 C編 71 巻 (2005) 705 号 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kikaic1979/71/705/71_705_1646/_article/-char/ja/
・ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集 2008 巻 (2008) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmermd/2008/0/2008__1A1-A11_1/_article/-char/ja/
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